久しぶりに酒米のお話です。酒米の世界は奥が深いです。。。
酒米の2大トップ品種と言えば「山田錦」と「五百万石」ですが、それに継ぐ作付け面積第3位の品種が「美山錦」です。「美山錦」は長野県で生まれた酒米で、主な産地は長野県になります。
「山田錦」と「五百万石」についてはコチラに書いています。
酒米の王様「山田錦」のルーツ① - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
酒米の王様「山田錦」のルーツ②、、、とゆうか「渡船」のこと - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
日本各地に広がる「山田錦」の子孫たち - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
酒米「五百万石」にまつわる物語 - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
今日は「美山錦」にまつわる物語を探って行きましょう^^
両親はいない....放射線照射で生まれた「美山錦」
実は「美山錦」には両親がいません。。。
多くの酒米は、父親である品種の花粉を母親である品種のめしべにかけて誕生するのですが、「美山錦」の場合はそうではありませんでした。
なんと、、、「美山錦」は放射線照射によってこの世に誕生しているのです!それは1972年(昭和47年)のことでした。
現在では大豆や果物など いろいろな作物で、放射線照射による品種改良が行われているそうです。それによってより優秀な品種がどんどん生まれているのです。なんかビミョーな気分ですが、、、、
日本で初めて放射線により品種改良された作物は「レイメイ」という飯米でした。今までになかった技術によって生まれたことから、1966年(昭和41年)に「育種の夜明け、黎明である」として「レイメイ」と命名されます。
この「レイメイ」ですが、全盛期には東北地方を中心に広く作られていたそうです。しかし現在ではすっかり姿を消してしまいました。ただ「レイメイ」の遺伝子を継ぐ品種は現在でもいろいろと栽培されています。(「一本〆」「華吹雪」など)
そして1972年に長野県農事試験場で生まれたのが「美山錦」です。酒米の「たかね錦」にガンマ線を照射し「美山錦」が生まれました。その後育成が行われ、1978年(昭和53年)に「美山錦」と命名されて品種登録がされました。
長野県の美しい山の頂に残る雪のような心白があることから「美山錦」と命名されたそうです。
「美山錦」が生まれるまでは「たかね錦」が主力だった
昭和40年代、「たかね錦」は生産量のベスト3に入るほどメジャーな酒米でした。極早生で寒さに強い品種であり、主に長野県などで栽培されていました。
この「たかね錦」は「北陸12号」と「農林17号」を掛け合わせて生まれた品種であり、さらに「夏子の酒」で有名になった「亀の尾」の遺伝子も受け継いでいます。
「たかね錦」より優秀な酒米を願い、「美山錦」が生まれた
「たかね錦」は寒冷地での栽培も可能な品種でしたが、やや小粒で心白発現率も高くありませんでした。さらに日本酒を醸した時に雑味の原因となってしまうタンパク質の含量は多いめでした。
そんなことから「たかね錦」よりもより優秀な酒米を作ろうとして生まれたのが「美山錦」だったのです。
「美山錦」は「たかね錦」に比べて大粒で、心白発現率も高くなります。そして「たかね錦」の長所であった耐冷性の強さは受け継いでいます。
「美山錦」が台頭してきたことで、「たかね錦」は徐々に姿を消してしまいました。現在では「美山錦」は寒冷地の酒米の代表となり、長野県はもとより、東北、関東、北陸地方と広く栽培されています。
ただし最近は各都道府県でオリジナルの酒米というものが出てきて、「美山錦」はこれらの酒米にやや押され気味といった状況になっています。
「美山錦」の特徴
「美山錦」は次のような特徴を持った酒米です。
- 千粒重:26.0g
- 寒さに強い
- 中生(なかて・種まきから収穫までの期間が早生と晩生の中間くらい)
- 長稈(茎が長い)で倒れやすい
- 心白発現率は高いが腹白米(米として不完全な状態)も多い
- 心白は山田錦ほどは大きくはない
- なめらかでサッパリとした、キレの良い酒になる
どちらかというと香りは少なく控えめな味わいで、派手な香りの日本酒が増えている最近からすると少し地味な感じもあるのですが、逆に控えめだからこそ飲み飽きない味だとして最近見直されてきているそうです。
「美山錦」の子孫たち
「美山錦」の遺伝子を受け継いでいる子孫たちも見ておきましょう。
・出羽燦々でわさんさん(1995年、山形県)
「華吹雪」との交配によって生まれた 山形県を代表する酒米であり、その命名も出羽国(山形県)の山々に因みます。「出羽燦々」の子孫には「出羽の里」「吟ぎんが」などもいます。
出羽燦々を使ったお酒については、コチラにも書いたことがあります。
『出羽桜 出羽燦々誕生記念』出羽桜酒造(山形県) - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
美味しかったですよ。
・神の舞(1996年、島根県)
「五百万石」との交配によって生まれた品種で、両方の良いところを持って生まれてきました。主に島根県で生産されています。
・秋の精(1996年、秋田県)
飯米でもある「トヨニシキ」との交配によって生まれた品種で、普通酒に向いているとされます。
・美郷錦(1999年、秋田県)
「山田錦」との交配によって生まれた品種で、吟醸酒向きの酒米とされます。
・酒未来(1999年、山形県)
・龍の落とし子(1999年、山形県)
・羽州誉(2000年、山形県)
この3品種は山形県の高木酒造14代の高木辰五郎氏が育成したものです。高木酒造はあの「十四代」と造っている酒蔵です。
「酒未来」と「龍の落とし子」は「山田錦」の子孫である「山酒4号」との交配で生まれました。
「羽州誉」は「ササニシキ」の突然変異株である「玉龍F10」との交配により生まれました。
・越の雫(2000年、福井県)
「五百万石」の子孫である「兵庫北錦」との交配により生まれました。福井県の主要酒米である「五百万石」と作期が分散するようにと作られた品種で、早生ですが「五百万石」よりはやや遅い収穫になります。
というわけで、今日は「美山錦」のお話でした。
私は「美山錦」で造ったお酒っていいなと思うこと多いですね。というか、美味しいなと思ったお酒が「美山錦」だったことが多いって感じで、、、、
ただ最近、「酒米の違いでお酒の味にそれほど違いが出るわけでもない」(←これを言ったら元も子もないって感じですが)って話も聞いた(読んだ)ので、どうなのかよくわかりません。
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