先日、「山田錦」のルーツについていろいろ書きましたが、今日はその続きになります。前回の記事はコチラです。
酒米の王様「山田錦」のルーツ① - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
前回の記事では「山田錦の特徴」や「山田穂と短稈渡船から生まれたこと」そして「母親の山田穂について」などについて書きました。
では父親の短稈渡船についても見ておきましょう。
父親の「短稈渡船(たんかんわたりぶね)」について
山田錦のルーツについて検索すると必ず出てくる「短稈渡船」ですが、調べてみるとこの酒米はかなり数奇な運命を辿っていました。
調べていて、私が勝手にわくわくしただけです。
「短稈渡船」の祖先は「渡船」です。
「稈」とは稲の茎のことで、「短稈」とは茎の長さが短いタイプの稲のことを言います。稲は茎が長いと倒れやすくなってしまうのですが、「短稈渡船」は「渡船」の中でも茎が短く倒れにくい品種でしょう。(品種改良がされたのかはわかりません)
実はこの「渡船」、「雄町」と同一の品種とされているのです。
*実は「渡船」=「雄町」だった
「雄町」は100年以上も前のかなり古い品種です。現在も酒造りに使われている品種としては最古のものになります。品種登録されたのは1866年(慶応2年)で、その後いろいろな土地で育てられました。
明治中期には近畿、中国、四国、そして九州でも栽培されていたそうです。長年、各地で栽培されているうちに、その土地に適した品種に少しずつ変化したりもしました。一度は生産が激減しましたが、現在はまた生産量が増えています。雄町については、いずれ詳しく記事にしていきたいと思います。
そして「渡船」には、こんな由来があるとされます。。。
明治の半ば頃でしょうか、滋賀県の農業試験場は福岡県から「雄町」を取り寄せます。その後、琵琶湖の船上で種もみを水洗いしていた時に名称が書かれたラベルを落としてしまったそうなんです。
ラベルを失ってしまってはこの品種の名前も呼ぶことができない、、、それでは不便ですから便宜的に「渡船」と名付けたというのです。1895年(明治28年)に「渡船」として品種登録がされました。
水洗い中に落として名称がわからなくなったとか、便宜的に勝手に「渡船」と名付けて品種登録するとか、、、いくつか突っ込みたくなる話で、全てが本当の話ではないかもしれません。
名称がわからなければ、種もみをくれた福岡県に連絡をとって確認することだってできますよね。まぁ、今のように簡単には連絡をとれなかったのかもしれませんが、、、
ただこれが福岡県から取り寄せた品種だったこと、1895年に滋賀県の農業試験場で「渡船」として品種登録がされたことは本当です。
そして品種登録がされた後で雄町と同一ものであることが判明しました(判明したのがいつ頃のことなのかはわかりません)。
*滋賀県の奨励品種になるも、やがて幻の酒米に
その後「渡船」の中でも優良なものを選抜して「滋賀渡船2号」「滋賀渡船4号」「滋賀渡船6号」「滋賀渡船26号」が作られました。2号と6号は1916年(大正5年)に品種登録されています。(他の品種も同時期だと思います)
1916年から1959年(昭和34年)には、「渡船」は滋賀県の奨励品種として盛んに生産されていたそうです。しかし奨励品種ではなくなって生産されなくなり、やがて幻の酒米と言われるようになってしまったのです。
*近年、滋賀県と茨城県で復活!
一度は生産されなくなり「幻の酒米」となってしまった「渡船」ですが、近年、滋賀県と茨城県で見事に復活を遂げました!(滋賀県だけでなく、茨城県でも昔は「渡船」を栽培していたそうです。)
幻となってしまった品種を再び生産したいと思い立っても、種もみがなければ始まりません。あちこちを巡ってやっと滋賀県農事試験場やつくば市の国立農業生物資源研究所で、大切に保管されていた種もみを一握り分だけ分けてもらえたそうです。
そのたった一握りの貴重な種もみを元に、数年かけてお酒が醸せる量になるまで手塩にかけて育てられたんです。文章にしてしまうと数行ですが、植物って種から実をつけるまでに一年がかりですからね。。。収穫間際に台風なんて来たら全滅になってしまいますし。。。
現在は滋賀県にも茨城県にも、「渡船」を使って醸した日本酒が販売されています。
茨城県で「渡船」を使った日本酒を造られているのは、石岡市にある「府中誉株式会社」さんです。茨城県で「渡船」を復活させようと初めに行動されたのは、この酒蔵の方なんです!
サイトはコチラなんですが、、、
現在は商品一覧のページしかないようです。
サイトリニューアル中とのことなので、いずれ酒米のことなども書かれているサイトになるかもしれません。
飲んでみたいですよね〜。「渡船」「山田穂」「山田錦」で飲み比べなんてどうですか?
最後に、まだまだ浪漫をくすぐるエピソードが続きます。
「渡船」は海を渡り遠くアメリカの大地で、あの「カリフォルニア米」の先祖にもなっているらしいのです!
「山田錦」の話をしようとしていたはずが、気づいたら父親の「渡船」の話だけで終わってしまいました。
最後に、、、
現在「山田錦」は全国で生産されていますが、 栽培適地とされるのは兵庫県の三木市、加東市の辺りです。この辺りの土壌や気候が、山田錦の栽培に一番向いているのです。
東北でも作っていますが、山田錦は米が実るまでに時間がかかる品種のため、寒い地方では米が十分に実る前に寒くなってしまったりして無理なのだそう。。。
「兵庫県三木市、加東市産の山田錦で醸した日本酒」が良いようですね。今まで産地まで気にしたことがなかったので、ちょっと気にしてみようと思いました。
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