酒米の世界の二大トップ品種と言えば、「五百万石」と「山田錦」でしょう。酒米の作付け面積の60%以上はこの二つの品種が占めています。
「山田錦」については、以前いろいろと調べてみました。
酒米の王様「山田錦」のルーツ① - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
酒米の王様「山田錦」のルーツ②、、、とゆうか「渡船」のこと - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
日本各地に広がる「山田錦」の子孫たち - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
というわけで、今日は「五百万石」のルーツや子孫について調べていきます。
最も広い地域で栽培される酒米「五百万石」
現在、酒米の作付け面積トップは「山田錦」です。少し前までは「五百万石」がトップだったこともあったのですが、何年か前に抜かれてしまいました。
しかし栽培されている地域を見ると、最も広い地域で栽培されているのは「五百万石」になります。
「山田錦」は晩生(おくて・生育が遅く収穫までに時間がかかる)の品種です。収穫までに時間がかかる品種の場合、寒冷地では十分に米が熟す前に寒さがやって来てしまうことになります。「山田錦」は東北地方でも栽培されてはいますが、上質な酒米に育てることは難しいとされます。
それに対して「五百万石」は早生(わせ・生育が早く早い時期に収穫ができる)の品種です。寒冷地でも寒さがやってくる前に収穫ができるため、栽培がしやすいのです。そんなこともあって、「五百万石」は北陸を中心に最も広い地域で栽培がされています。
五百万石の両親
五百万石は「菊水」と「新200号」という酒米を掛け合わせて生まれました。
「菊水」は「雄町」を改良した品種で、1937年に品種登録されました。その後育てる人がいなくなり一度は消滅してしまったのですが、1997年に新潟県の菊水酒造が復活させました。
「新200号」は「亀の尾」などの遺伝子を受け継ぐ酒米です。
この酒米には1944年に「文系290号」という系統名がついたのですが、戦争のために栽培が中断されてしまいました。
その後の1957年(昭和32年)、新潟県はこの酒米を「五百万石」として品種登録し奨励品種としました。
「五百万石」という命名の由来は、この年、新潟県の米の生産量が五百万石を突破したことにあります。新たに生まれた酒米に、記念すべき名称がつけられたのです。
そして「五百万石」は、日本を代表する酒米になりました。60年以上も第一線で活躍しているんですから、すごいです。
「五百万石」の特徴
「五百万石」は次のような特徴を持った酒米になります。
- 早生で早い時期に収穫ができる
- 寒さには弱い
- 倒伏しやすい
- 千粒重は25.8g
- 心白が大きいために50%以上の磨きは難しく、高級酒には不向き
- 麹が作りやすい品種である
- 淡麗でスッキリした味わいのお酒になる
五百万石の子孫
五百万石の遺伝子を継ぐ子孫や、五百万石が突然変異して生まれた品種についても見ておきましょう。
・古城錦コジョウニシキ(1968年、青森県)
弘前城に因んで命名。五百万石に匹敵する品質と言われながらも、その後幻の米になってしまう。しかし、1991年に復活した。
・豊盃ホウハイ(1976年、青森県)
古城錦の子供。一時期は廃れてしまったが、青森県の酒蔵によって復活した。
・兵庫北錦(1986年、兵庫県)
兵庫県南部の山田錦に対して、兵庫県北部での栽培に適していた。現在は新品種の兵庫夢錦などが出てきたため、減少している。
・一本〆(1993年、新潟県)
五百万石の短所を克服しようと作られた品種。耐倒伏性はやや強くなり、心白サイズなどは五百万石と同程度。全体としては五百万石より優れているとされる。
・石川酒30号(1993年、石川県)
五百万石の短所である耐倒伏性、耐冷性の弱さなどが改良され、心白の状態も良くなり五百万石よりもさらに磨けるようになった。高級酒にも向いている。
・神の舞(1996年、島根県)
耐冷性の弱い五百万石に、耐冷性の強い美山錦を掛け合わせて作られた。心白の発現率は高い。
・越淡麗(2004年、新潟県)
五百万石は高精白には向かない酒米で、そのため吟醸酒には他県産の山田錦を使っていた。新潟県独自の、吟醸酒に向く酒米を作ろうと開発された品種。柔らかくてふくらみのある酒質になる。
・人気しずく(2009年、福島県)
2005年、五百万石の田んぼの中から普通よりも背の高い稲が突然出現!その突然変異の稲を選抜したもの。福島県の人気酒造の依頼を受けた個人育種家が開発したもの
人気酒造が開発したから「人気しずく」なんですね。人気酒造についてはコチラにも書いたことがあります。
人気酒造株式会社『スパークリング瓶内発酵 純米吟醸』(福島県) - 酒猫ブログ(「酒と猫の日々」改め)
というわけで、五百万石のお話でした。
一つの酒米の研究開発の始まりから、実際にその酒米でお酒を醸せるようになるまでには、きっととてもたくさんのストーリーがあったのでしょうね。。。
なお、これを書くにあたって『酒米ハンドブック 副島顕子著』をかなり参考にさせていただきました。
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